インターネットメジャーの栄枯盛衰

さして目新しい情報ではありませんが、簡単なチャートを作成した。
先週、TechCrunchYahoo!内の匿名筋の情報として、Yahoo!が人員の20%削減(同社従業員数は1万4000名)を計画していると報道したが、11/12にYahoo!は「誤解を招く恐れがあり不正確」だと反論。ただしレイオフの可能性を完全に否定はしなかった。
2008年に人員削減(約7%の削減)、マイクロソフトからの買収提案、ジェリー・ヤンCEOの辞任と、経営が揺れているが、当然株価も停滞し時価総額も200億ドル前後(それでも1.6兆円)で一進一退。一方のAppleはこの4年間で株価は6倍、リバイバルどころか世界第二位の時価総額の企業にまでのし上がっている。
1997年に雑誌社の依頼でヤン氏にインタビューを行ったり(Yahoo!メッセンジャーで)、私的にも多少あったので、個人的に感じるものがある。MicrosoftやeBay、Facebookを含めたジャイアント達の主導権争いは目が離せない。90年代後半の"search engine"、2000年代前半の"portal"から次なるインターネット・メジャーに移行する中で、巨大企業といえども一挙に旧来から脱皮しないと買収の憂き目に遭うビジネスと想像している。土手から見ているだけでは真実はわからないが。
しかし振り返れば、今や時価総額3000億ドルに近づくAppleは、1996年頃にはSun Microと合併交渉をしており、当時の時価総額は4-50億ドル(下図、現在の数十分の一である)だった。当事者のSunが今年1月にOracleに買収されてなくなったことを思うと、まさに栄枯盛衰を地で行っている。
ただし、企業は廃れど、個人とネットワークが存続し変化していくのが彼の地であり、Yahoo!のメンバーもSunのマクニーリも、Appleジョブズの如く復活を遂げるかもしれない、と想像したくなる。



ベンチャーキャピタルのパフォーマンスと構造変化

以下のワーキングペーパーをまとめました。
『米国ベンチャーキャピタルのパフォーマンスと構造変化』(Does U.S. Venture Capital Work? : Its investment, return and structure)
小職のサイト、およびSlideShareに掲載しています。

1.はじめに
2.米国ベンチャーキャピタル投資の分析
 (1)減少するも依然巨大な規模、(2)ネットバブル後の構造変化、(3)アセットサイズの問題、(4)資金調達データによる分析、(5)収益性の問題
3.米国VCファンドのパフォーマンス
 (1)ファンド・パフォーマンスの測定、(2)VCファンドのパフォーマンス、(3)個別ファンド・パフォーマンスの実態
4.VCファンドを動かす要因
 (1)パフォーマンスが偏る要因、(2)特定ファンドの競争力、(3)VCの競争力
5.今後の展望と日本への示唆

アマゾンが買収したQuidsi(Diapers.com)のファイナンス

先週末にAmazonが5.4億ドル(約450億円)でQuidsi(Jersey City, NJ)の買収を発表した。同社は2005年創業で、ベビー用品EコマースのDiapers.comや、Soap.com、BeautyBar.comを運営している。Diapers.comは立ち上げから4年で2010年の売上が3億ドルを超す勢いで、アマゾンが買収に動いた。

創業者マーク・ロアーの理念は、ロジスティックスの完全な独自アルゴリズム化で、この方針を徹底させたおかげでここまで成長してきたらしいが、相当にキメ細かなノウハウとサービスなのであろう。雑貨販売のサービス水準や商品性が低いアメリカだからできたのかもしれないが。
ざっと見る限るでは、日本でも出来そうに感じるビジネスモデルであるが、ロジスティックスに圧倒的競争力を持つとされるだけに、少し探っただけでは理解できないのだろう。また、4年間で7850万ドルの資金を調達しており、さすが多額の資金を投入しただけのレベルにあるように感じる。
ロアー氏はソフトエンジニアではなく投資銀行でプロダクツを作っていた経歴。リスクマネジメントの本も刊行している。余談だが、ロンドンでクレジットアナリストとして邦銀(Sanwa Int'l Bank)に勤務していたそうである。
下表に同社概要とこれまでのファイナンス履歴を調べてまとめてみた。これも余談になるが、SeriesAのエンジェル投資家にニコラス・ネグロポンテがいる。エンジェルなのかメンターなのか、何社か支援しているようだ。


スーパーエンジェルとLean VCの台頭

ネットバブルの時代は、ベンチャーキャピタルの最盛期であり、拡大期であった。その後の不振を経た後、最近はプライベート・エクイティやエンジェル投資家の存在感が増している。PEはレイターステージやメザニンステージの大型増資で重要な投資家になり、エンジェルはシードからアーリーステージまでの初期の資金調達において確固たる地位を占めている。
VCの中でも形態が変化している。エンジェル投資家がグループを組んで個人向けのベンチャー投資ファンドを作り、そのGPである個人(エンジェルのリーダー格)はVCと同様にシリーズA以降にも投資を行い、スーパー・エンジェルと呼ばれる。VCにおいても、シードとシリーズA段階の少額のベンチャー投資を専門とするマイクロ・ベンチャーキャピタルあるいはリーン・ベンチャーキャピタル(Lean Venture Capital)と呼ばれる組織が登場し、費用を抑えた低コストのベンチャー企業へ投資しており、1970年代の手作りのVCの姿を彷彿とさせる。Paul Grahamは、ベンチャー投資の現状をVCとスーパー・エンジェルの競合による「混乱期」と述べているが、どのような展開になるのだろうか。
下の表は、CrunchBaseのデータを用いて、従業員200名以上のベンチャー企業のうちSeed/Angel Financeを行っているものを抽出したものであるが、想像していた通りこういうスタートアップ・ファイナンスを経験した成長企業が多い。Grahamが言うように、かなり存在感のある勢力になっているようだ。

KPCB、SequoiaのVCファンドパフォーマンス

先日、「ベンチャーキャピタルのリターンはなぜ偏るか」について書いた。
これに添えて、優秀とされているVCは具体的にどのようなリターンを上げているかをみてみよう。下表は、カリフォルニア大学が過去3度以上出資したVCファームについて、個々のファンドの投資倍率(D+RV/PI)を同大学の出資回数順に分析したものである。個々の投資倍率の下段は全米のVCファンドにおける各設立年の平均投資倍率との差(つまり平均点との格差)であり、これによりそれぞれのファンド運用成績の優劣が判明する。

(カリフォルニア大学監督局資料から筆者作成。シャドー部はいわゆるスーパースター・ファンド。)

同大学が出資するVCファンドは一部であり、VCの全体像を解明することは不可能だが、高い評価を受けているVCファームにおけるパフォーマンスの特徴を把握できる。第一に、業界で最上位グループ に位置付けられるVCは、長期間にわたり高いパフォーマンスを持続していることである。表5で最上位グループのVCはKPCBSequoia Capitalであるが、KPCBが1980年以降の17年間に設立した8本のファンドを合計すると、カリフォルニア大学の得た平均投資倍率は8.3倍であり、またSequioa Capitalのファンドも同様に6.8倍にのぼる。同大学の基金では稼ぎ頭だったことは想像に難くない。
第二に、これら2社は平均を上回るパフォーマンスを「継続して」実現しており、Sequoiaに至っては調査した7本とも平均を上回っている。また、2社は業界でスーパースター・ファンドと呼ばれる10倍以上の投資倍率をそれぞれ2本実現しており、この大成功によって両社の評価が高まった事実はこの数値をみるだけで頷けるものであろう。
また、両社以外の4社も上位の評価を受けているVCであるが、カリフォルニア大学が継続してファンド出資を続けるだけの収益率を上げており、4社のファンドで投資倍率が1.5倍を下回ったものは1本だけである。最上位だけではなく、これら4社のファンド・パフォーマンスの継続をみても、経験が豊富で高い評価を得ているVCが好成績を上げている事実が確認できる。
各ファンドのパフォーマンスに加え、一つ留意すべきことがある。VCファンドの収益率は株式市場やIPO等の環境変化で大きく変動し、ファンド出資者が得る投資成果も時代により格差が大きい。10年にわたって固定資金をVCに委任する出資者は個別の運用を指図できるものでもなく、有限責任の出資者としてGPによる運用の成功と失敗を受け入れるしかない。ファンドの出資者が能動的に自分だけでできる意思決定は、新設ファンドに出資するか否かである。長期に高いパフォーマンスを上げているVCは、これまでファンド出資者に多くの収益をもたらしており、出資者と強い信頼関係を構築している可能性が高い。過去の高収益により累積的な収益率は他のVCや金融商品に比べ優位であるから、仮に直前のファンドの収益率が低く出資者が不満足であっても、新設ファンドで募集する金額は集まりやすく、VCは過去の高パフォーマンスによってファンド募集活動の労力を軽減することができる。このようなファンド出資者との長期的関係の濃淡も、VCにとっての重要な競争力と考えることができるだろう。

クリーンテックVC投資の動向

次なるテーマが短期間に創出されて巨額の投資活動によって未知に挑戦するところが、アメリカのVC投資の特徴であり、面白さでもある。
クリーンテック、ソーシャルメディア関連投資と、グロース・キャピタルの増加が、ここ2年の動きだが、そのクリーンテック分野への投資をグラフにした。VCのクリーンテック投資は投資額全体の1-2%にすぐなかったが、2009年以降の急増で10%を超えるレベルまで達しており、新しい投資業種になっている。言うまでもなく、原油価格の高騰、地球温暖化問題や新技術の登場を受けて2006年から投資が急増したのだが、2010年上期の半年間に約22億ドル(前年比203%増)と日本の年間ベンチャーキャピタル投資額全体(2009年度は875億円)の2倍もの額が投入されている。

ただ、さすがに2010/2Qは大型増資がたまたま集中したのか、7-9月の3Qは6.25億ドル(前年比▲7%減)となった。興味深いのはCorporate Venture Capitalと企業投資が増えていることで、イクスパンション案件に提携した事業会社が乗り込んでいる構図がうかがえる。しかし、何にしろ、1回当たりの調達が平均で軽く1000万ドルを超える訳で、日本でいえばIPO並みの大きさである。

一方、ネットバブルの時期には、VC投資額の70%以上がインターネット関連業種とこぞってネットベンチャーに巨額の投資資金が流れるという過熱状態が起こったが、最近1、2年はインターネット関連業種の投資比率が全体の40%前後まで低下している。そのネット関連業種の多くはソーシャルサービスであり、他のネットベンチャーへの投資は深刻な停滞状態にあるのは間違いない。

(出所)PricewaterhouseCoopers and NVCA, “The MoneyTree Report”、2010年10月。

昔書いた本・・・

手前味噌な話で恐縮だが、1997年に書いた『ベンチャー 起業と投資の実際知識』(東洋経済新報社)を編集し直して、e-Bookにする予定である。
・・・といって、昔の経済書を読んでもらえる人がどれだけいるかは全く自信がないので、電子ブックならば自分の手間だけで編集出版に迷惑や費用をかけることもあるまいという発想。
東洋経済では数年前に絶版になったが、Tech Ventureのサイトでオリジナルの原稿をpdfで公開しておりますので、関心ある方がいらっしゃればご笑読下さい。
十年以上前の刊行なので、データが古いし、当時わかっていなかった、あるいは書きもらした事実も少なくない。当時に分析し足りなかったこともあるし、詰めが甘かった事項も多々。特にVCのパフォーマンスと経済的意義についての分析が全く不十分である。
本来は新たに書きおろす方が望ましいが、そこまでの力不足を感じ、頓挫中である。過去の著書について語るのは恥ずかしい、と言った某教授の心がわかる気もする。恐惶謹言。