KPCB、SequoiaのVCファンドパフォーマンス

先日、「ベンチャーキャピタルのリターンはなぜ偏るか」について書いた。
これに添えて、優秀とされているVCは具体的にどのようなリターンを上げているかをみてみよう。下表は、カリフォルニア大学が過去3度以上出資したVCファームについて、個々のファンドの投資倍率(D+RV/PI)を同大学の出資回数順に分析したものである。個々の投資倍率の下段は全米のVCファンドにおける各設立年の平均投資倍率との差(つまり平均点との格差)であり、これによりそれぞれのファンド運用成績の優劣が判明する。

(カリフォルニア大学監督局資料から筆者作成。シャドー部はいわゆるスーパースター・ファンド。)

同大学が出資するVCファンドは一部であり、VCの全体像を解明することは不可能だが、高い評価を受けているVCファームにおけるパフォーマンスの特徴を把握できる。第一に、業界で最上位グループ に位置付けられるVCは、長期間にわたり高いパフォーマンスを持続していることである。表5で最上位グループのVCはKPCBSequoia Capitalであるが、KPCBが1980年以降の17年間に設立した8本のファンドを合計すると、カリフォルニア大学の得た平均投資倍率は8.3倍であり、またSequioa Capitalのファンドも同様に6.8倍にのぼる。同大学の基金では稼ぎ頭だったことは想像に難くない。
第二に、これら2社は平均を上回るパフォーマンスを「継続して」実現しており、Sequoiaに至っては調査した7本とも平均を上回っている。また、2社は業界でスーパースター・ファンドと呼ばれる10倍以上の投資倍率をそれぞれ2本実現しており、この大成功によって両社の評価が高まった事実はこの数値をみるだけで頷けるものであろう。
また、両社以外の4社も上位の評価を受けているVCであるが、カリフォルニア大学が継続してファンド出資を続けるだけの収益率を上げており、4社のファンドで投資倍率が1.5倍を下回ったものは1本だけである。最上位だけではなく、これら4社のファンド・パフォーマンスの継続をみても、経験が豊富で高い評価を得ているVCが好成績を上げている事実が確認できる。
各ファンドのパフォーマンスに加え、一つ留意すべきことがある。VCファンドの収益率は株式市場やIPO等の環境変化で大きく変動し、ファンド出資者が得る投資成果も時代により格差が大きい。10年にわたって固定資金をVCに委任する出資者は個別の運用を指図できるものでもなく、有限責任の出資者としてGPによる運用の成功と失敗を受け入れるしかない。ファンドの出資者が能動的に自分だけでできる意思決定は、新設ファンドに出資するか否かである。長期に高いパフォーマンスを上げているVCは、これまでファンド出資者に多くの収益をもたらしており、出資者と強い信頼関係を構築している可能性が高い。過去の高収益により累積的な収益率は他のVCや金融商品に比べ優位であるから、仮に直前のファンドの収益率が低く出資者が不満足であっても、新設ファンドで募集する金額は集まりやすく、VCは過去の高パフォーマンスによってファンド募集活動の労力を軽減することができる。このようなファンド出資者との長期的関係の濃淡も、VCにとっての重要な競争力と考えることができるだろう。