ベンチャーキャピタリスト「私の履歴書」

1960年代は、アメリカには「ベンチャーキャピタル」という言葉はまだ通用しておらず、"Risk Investment”と呼びすてされることもあった。この時代にハイテク投資に乗り出した第一世代のベンチャーキャピタリスト達は既に90才を過ぎ、世を去った人も少なくない。VCの祖であるAmerican Research and Developmentを創ったGeorges Doriot教授は1987年に、KPCBを創ったEugene Kleiner氏は2003年に逝去されている。
アメリカのVC産業は先端と未来を追うことに躍起になりながらも、その過去の苦闘や失敗にも地道に調査の光を当てており、その隠れた良識と知性が私の尊敬する理由の一つでもある。
その例を、NVCAが行っている"Venture Capitalists Oral History Project"にみることができる。決して規模の大きいものではないが、NVCAの支援のもとでUC Berkeleyの研究者がこつこつと老ベンチャーキャピタリストに綿密かつ的を得たインタビューを実施し、後世に記録を残している。
彼ら第一世代がこの世に残す期間も短く、現存のうちに過去の遍歴を記録に残しておこうという目的でプロジェクトは2008年に始まり、現在は13名の老ベンチャーキャピタリストの記録がインターネットに掲載され、現在も数人のインタビューが進行中であるという。

日本のVC産業も1970年代に勃興して40年が経過するという。これまでにどのような事が起こり、誰が何を起こしてきたのか。IPOや新ビジネスで脚光を浴び、メディアや世間からすさまじい注目でもてはやされつつも後に忘れ去られたベンチャービジネスも少なくなく、世に出ることなく終わった投資案件は無数にある。しかしながら、何かしらの記録に残すことが全くなく、過去を水に流してしまっている日本の実態は残念であると思うのだが。

写真は左から、Thomas Perkins(Hewlett-Packard, co-founder of KPCB)、Arthur Rock(founded Davis & Rock)、Donald ValentineFairchild Semiconductor, National Semiconductor, founded Sequoia Capital)、William Draperfounder with Pitch Johnson of Draper & Johnson Investment Company、founder of Sutter Hill Ventures)、Burgess Jamieson(co-founder of Institutional Venture Associates and Sigma Partners)。

PS:
(1)Tom Perkins氏は2006年に自叙伝的ロマンス小説"Sex and the Single Zillionaire"を書いたことは業界では有名です。数ある女性から一人選ぶのも、投資案件を選ぶのも同一メソッドでしょうか気になります。シリコンバレーのWatanabeさんが同書を解説されています。
(2)日本でこのような史実発掘蓄積の取り組みが全くないわけではなく、日本ベンチャー学会は2009年11月に「対談:創成期のベンチャーキャピタル業界」という座談会を開催しています。