水に流してはいけない不祥事

年忘れの時期であるが、以下の話題は記録しておくべきなので一文を書く。
今年の国内IPOは22社と昨年の19社に続いて大低迷が続いた。またぞろIPO件数の話題とはうんざり、と感じるかもしれないが、今年はエフオーアイ(6月15日、マザーズ上場廃止)やシニアコミュニケーション(9月24日、マザーズ上場廃止)という『粉飾の大立者』が市場の話題となった年でもあった。
ネットであちこちブラウズしても、不祥事をしでかした上場企業リストがまったく出てこないので、自身でコツコツ作ってみた。門脇徹雄氏等が2008年に刊行した本で多数の不祥事企業のケーススタディをされているが、その資料をお借りして修正加筆してみたものである。その数49社。もちろん、これ以外の不祥事も多数あるので厳密な客観性をもった基準ではないことを申しあげておく。
このリストでは純粋な経営不振による上場廃止は除いているが、よくぞこれだけ手を染めたと思いたくなるほどである。2001年から今年までの10年間で1146社が上場を果たしているが、同じ期間にこの49社が不祥事で上場廃止になっているから、「不祥事廃止率」=4.3%と相当な確率(!)だ。

この49社のうち、不正行為を理由に上場廃止となった企業が下図である。

取引所による上場廃止処分まで至らなかったが、その他の処分が取引所から課せられた企業は次の図。

最後に、不正行為で倒産・上場廃止になった企業と、上場廃止後に不正が発覚した企業は下図である。

ブログでは見やすい図を掲載できないので、詳細な資料がご覧になりたい方はこちらのサイトをご覧ください。
2005年1月のライブドア強制捜査以来、新興市場は企業の不祥事の度に信頼を喪失してきた。株式投資においては、投資対象企業の「事業リスク」とマクロ金融情勢等の「市場リスク」をよく調査しなさいと教わるものである。しかし、21世紀日本の新興市場では、これら2つのリスクに加えて「作為のリスク」があった。粉飾のリスクとまでは言わないが、おそらく多くの個人投資家はそう思っている。当たり前だが、企業経営者が粉飾や虚偽報告をする可能性は計測不可能である。社長の思惑まで投資家が推測できようがない。それどころか、大阪証券取引所の2008年度優良IR賞が社長が実刑判決を受けたプロデュース(上表の19。事件後に大証は賞を取り消し。)・・・という笑えない話まである。
アメリカでは2001年から2002年にかけてエンロンワールドコムという多国籍企業による巨大な粉飾決算の事件が起こった。エンロンのCEOであったケネス・レイとワールドコムのCEOバーナード・エバーズは、事件発生前までは時代を先取りする先端的な経営者として圧倒的な賛辞を浴びていた。しかし、事件発覚で立場は一変し、二人は逮捕・収監され、レイは有罪評決を受けた二カ月後の2006年7月に心臓発作で死去(この結果、裁判は途中で中止)、エバーズは禁固25年の実刑判決と10億ドルの罰金という終身刑に近い極刑を言い渡されている。
人の履歴書にはちゃんと賞罰の欄がある。しかし、上記の中で今も営業している企業達は、何も起こらなかったかのように不祥事の情報はホームページ等の開示からは消し去っている。賞ばかり宣伝する一方で自社の起こした事件はすべて水に流すような姿勢は許し難い。不祥事が年末に忘れ去られるような事のないよう、事件の永久開示を義務づけるべきと独り憤慨しているが、諸氏はいかが思われるか。

(門脇徹雄さんには資料でお世話になりました。一言お礼申し上げます。)